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X-Plane11で学ぶコンコルド

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1975年に就航した超音速旅客機コンコルドは通常の旅客機にはないさまざまな特徴がある。今回はX-Planeで利用可能なConcorde FXPを例にコンコルド”ならでは”を紹介したい。

超音速旅客機コンコルドとは

音速を超える速さで飛行する旅客機を超音速旅客機という。音速は空気の状態によって変化するため一概には言えないが、地上付近だと音速は1225km/h(340.31m/s)くらいである。コンコルドの場合、巡航速度はマッハ2.04であるから音速の2倍で飛行することができる。ここでマッハ数とは音速を1としたときの数である。通常旅客機でもマッハ0.70程度からはknotではなくマッハ数を使用する事が多い。

超音速では衝撃波と熱が問題になることが知られている。音(空気密度の変化)が伝わる速度より速く移動すると、その物体の周りで衝撃波が発生し地上まで届くと問題となる。超音速飛行が洋上のみでしか許可されていないのはこのためである。 物体が動くと前方の空気が断熱圧縮されて熱が発生する。通常旅客機の場合は問題にならないが超音速で移動するとその熱が無視できない。コンコルドの場合マッハ2で胴体が91℃になると言われている。スペースシャトルが大気圏再突入する際にも断熱圧縮による熱が発生する。

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巡航高度は55,000ft〜60,000ftで通常旅客機よりかなり高い。コンコルドが超音速を出すのはこの巡航高度で、離着陸・上昇下降は音速以下である。高高度は空気が薄いため抵抗を減らす事ができる。

コンコルドの特徴

コンコルドは超音速飛行を実現するために様々なユニークな特徴を持っている。それらを説明しよう。

折れ曲がる機首

コンコルドの機首(コックピットの前側)は抵抗を減らすため長細く先が尖った形をしている。コンコルドの三角翼は離着陸では大きな迎え角を必要とするため、ただでさえコックピットからの下方向の視界が悪いのに、機首が邪魔をして更に悪くなる。そこで離着陸時は機首を下に曲げて視界確保できるようにしている。 f:id:libayanel:20210510221106p:plain f:id:libayanel:20210510221050p:plain f:id:libayanel:20210510220528p:plain f:id:libayanel:20210510221153p:plain 機首を上げた場合と下げた場合

ターボジェットエンジンとインテーク

コンコルドで一番特徴的なのはやはりエンジンであろう。

現代の旅客機では高バイパス比のターボファンエンジンが使用されているが、コンコルドが使用するのはターボジェットエンジンである。ターボファンエンジンは燃費は良いがエンジンが大きくなる傾向にあり、少しでも抵抗を減らしたいためターボジェットエンジンを選択したもとと思われる。

コンコルドのエンジンには他の旅客機にはないリヒートと可変インテークという二つの特徴がある。

リヒート(reheat)はタービンの排ガスに燃料を噴射して再度燃焼させる。これはアフターバーナーとも呼ばれるが米GE社の商標のためここではリヒートと呼ぶ。リヒートは離陸時や音速への加速時など推力を増幅させたいときに使用する。ただし燃費がとても悪いためずっとは使用できない。スイッチをONにしているときにスロットルを上げるとリヒートできるようになっている。このスイッチは他の旅客機では燃料供給スイッチのある位置にある。

f:id:libayanel:20210510221233p:plain 超音速の場合インテークも工夫しなければならない。インテークとはエンジンの空気取り入れ口である。通常旅客機の場合インテークの直ぐ後にファンがあるのが見えるが、コンコルドではインテークが長いので奥の方をよく見ないとファンは見えない。超音速流がファンに当たると衝撃波を発するためインテーク内で音速以下まで減速させる。インテークは音速以下だと真っ直ぐな箱だが、音速になると砂時計のように段々狭まり、半分を過ぎると逆に段々広くなる(末広がり)ように変形する。段々狭まる形状をコンバージェントと言い、段々広くなる形状をダイバージェントと言う。音速流がコンバージェントノズルに入ると流速は音速以下に減速し、圧縮される。そこからダイバージェントノズルに入ると同様に減速、圧縮される。音速と音速以下ではノズルの役割が逆転するので、コンバージェントノズル→ダイバージェントノズルの順にすると同じ効果を持つ。なぜ圧縮が必要なのかというと燃料に点火する際に圧縮されていると燃費がよくなるためだ。

エンジン模式図の右上の太白線が観音開きのように下に降りてきてコンバージェントノズル・ダイバージェントノズルの形になる。

f:id:libayanel:20211023222529p:plain これは超音速飛行中のエンジンである。右側から空気を取り込むフローは3段階に分けることができる。①:空気は超音速(>M)で取り込まれる。②:段々狭まる形状によって、空気の速度が音速以下に下がり、圧力が上がる。③:段々広がる形状によってこれもまた空気の速度がに下がり、圧力が上がる(音速の場合と、音速未満ではノズルの役割が逆転するためだ)。そして、エンジンには十分に減速された空気が供給される。この板は飛行速度によって自動で調整される。(ちなみにこの板をランプという)

f:id:libayanel:20211023222110p:plain f:id:libayanel:20211023222122p:plain 外部からでもランプが見て取れる。

燃料トリム

f:id:libayanel:20210510221544p:plain 単純にトリムという場合はエレベータトリムのことを指す(他にエルロントリム、ラダートリムがある)。機体の風圧中心(center of pressure: 揚力の作用点)と重心(center of gravity)が一致している場合、ピッチの釣り合いは取れている。しかし、一致しない場合は上方向または下方向に傾いてしまうので、トリムで当て舵をして調整する。さて、コンコルドに話を戻す。超音速で飛行するコンコルドで同様に調整しようとすると、空気抵抗が大きく適切ではない。そこで考え出されたのが燃料トリムだ。コンコルドには燃料タンクが11つあり、1,2,3,4が各エンジンへの供給タンク、5,6,7,8が各供給タンクへ繋がるメインタンク、9, 10,11がトリム専用タンクである(9,10は前方にあり11が後方にある)。音速飛行中は風圧中心が後方に移動するので、それに合わせて燃料を後方へ移動し重心を2mも移すというから驚きだ。

その他スクリーンショット

f:id:libayanel:20210510221625p:plain 機首の上下操作レバー


f:id:libayanel:20210510221754p:plain 後方から
f:id:libayanel:20210510221802p:plain f:id:libayanel:20210510221849p:plain 真横から。垂直尾翼の下にあるのが全部燃料タンクである。
f:id:libayanel:20210510221816p:plain 真正面から
f:id:libayanel:20210510221845p:plain 真上から
f:id:libayanel:20210510222051p:plain f:id:libayanel:20210510222057p:plain 航空機関士席にはおびただしい数のスイッチがある。これを一つ一つ操作するもフライトシムの醍醐味である。
f:id:libayanel:20210510222112p:plain オーバーヘッドパネル